
木島 正明 教授
(学部長予定者)
「白衣の天使」と呼ばれたナイチンゲールのことは、皆さんも小さい頃、彼女の伝記を読んで知っていると思います。他の看護師さんもナイチンゲールのように献身的に患者さんに尽くしているのに、なぜナイチンゲールだけがこれほど有名なのでしょうか?実は、ナイチンゲールは看護の経験から、当時の病院での死者の大多数は院内の不衛生に起因すると気づき、そういった状況を明らかにするために多くのデータを集め、統計的に分析することで当時の医療衛生改革に大きく貢献しました。この「データに基づいて現実の問題を明らかにし、それを元に現実を改善する」というデータサイエンスの考え方は現在では当り前のことですが、彼女はそれを最初に実践した人です。このため、ナイチンゲールは「統計学の母」と呼ばれ大いに尊敬されているわけです。Oxford大学数理科学研究所では他の偉大な数学者と並んでこの業績が紹介されているほどです。
現代社会はどうでしょうか。我々はインターネットなどをとおして膨大な情報に接することができます。コンピュータを使えば、その情報は簡単に加工されデータとして蓄積されます。さらに、コンピュータ性能の飛躍的な向上および人工知能(AI)の技術が進歩したため、ビッグデータを高速に分析することが可能になりました。データを蓄積しただけでは何も生まれません。情報そのものには価値が無いからです。データを分析し、それを知識につなげ、社会やビジネスに役立てられるかが問われるのです。ナイチンゲールの偉大さはまさにこの点にあります。現代社会の多くの分野で、情報を集め分析し、客観的なデータに基づいて合理的な判断のできる「データサイエンティスト」と呼ばれる人材が求められています。
この一連の流れを扱うのが情報科学という分野です。しかしながら、データに基づく科学的な考え方を日本人は不得手にして来ました。いわゆるKKD(経験と勘と度胸)が幅を利かせていたわけですね。一方で、今後の日本が向かうべき社会であるSociety5.0を実現するためには、地域のスマート化による地方創生や地域企業のイノベーションが必須とされ、ここでは新KKD(仮説と検証とデータ)が必要とされています。さまざまなデジタルデータをAI・データサイエンス・情報通信技術を駆使して知識化し、ロボット等で自動化・高度化することで新しい社会を実現することができます。これは情報科学という学問分野が来るべきデジタル社会を支える鍵であるということに他なりません。
このように大きな可能性を秘めている情報科学ですが、現時点で成功している分野は限られています。周南公立大学に新設される情報科学部はこの魅力あふれる分野を教育・研究し、情報という切り口をとおして地域社会に貢献することを目指しています。意欲ある若者が集い、活気あふれる学部となることを期待しています。